塗装でも立体感や表情あるデザインを作ってくれる吹き付け塗装。意匠性が高く高級感のある外壁になるので、デザインにこだわりたい人に人気がある塗装方法です。
しかし「施工が難しく施工不良になることが多い」「近隣住宅への飛散トラブルが多く施工事例は減っている」と聞いて、吹き付け塗装での施工に踏み切れない方も多いのではないでしょうか。
今回は、吹き付け塗装のメリットやデメリット、施工時の注意点について解説します。吹き付け塗装が向いている外壁についても紹介するので、外壁塗装を検討している人は参考にしてください。
おさえておくべきこと
- 吹き付け塗装には4つの仕上げ方法がある
- 吹き付け塗装は、ローラー塗装より施工が早く、工期も短い
- 塗料の飛散量が多く、隣家と接近している外壁には施工できない
- 仕上がりが職人の技術力に左右されやすい
吹き付け塗装のメリット・デメリット
吹き付け塗装とは、主にモルタル外壁に施工される仕上げ工法です。エアレススプレーや万能ガンなどの吹き付け機械で、霧状にした塗料を吹き付けて塗装します。
吹き付け機械は塗料の種類によって変わり、外壁に模様や色が加わって意匠性のある仕上がりになります。
メリット1:施工が早く工期が短くなる
吹き付け塗装はローラー塗装よりも素早く塗装できるので、施工が早く、工期が短くなります。通常の塗料を塗る作業より一度に広範囲を塗装できるためです。
塗装中は「洗濯物を干せない」や「窓が開けられない」というデメリットがありますが、工期が短ければデメリットは軽減されます。また、工期が短いと施工業者の稼働日数が減るため、人件費が安くなるメリットもあります。
メリット2:外壁に塗料が密着しやすい
吹き付け塗装は塗料を噴射するので、手塗りでは難しい凹凸のある外壁でも塗料が密着します。塗料が密着すると塗りムラもなくなり、美しい仕上がりが期待できます。
ローラーだと凸凹の隙間が埋められない恐れがあるので、複雑な模様がある外壁は吹き付け塗装がおすすめです。
塗料が密着していると剥がれにくいため、耐久性も高くなります。
メリット3:吹き付けならではの高い意匠性
吹き付け塗装は、通常の塗料では作れない凹凸のあるデザインや、自然石のような意匠性の高いデザインが作れます。写真のように模様がついた意匠性のあるデザインは重厚感が増し、高級な外観を演出できます。
吹き付け塗装で意匠性のあるデザインが作れるのは、塗料と一緒に小さい石や砂が入った表面化粧材を吹き付けるからです。表面化粧材によって模様や質感・手触りが変わり、独特な雰囲気がある外観に仕上がります。
デメリット1:塗料の飛散防止に厳重な養生が必要
吹き付け塗装は塗料が飛散しやすく周囲が汚れやすいので、厳重な養生が必要です。霧状になった塗料は広範囲に飛散するため、ビニール養生で隙間を作らないよう注意しながら行います。
ただし、しっかりと養生しても、風の影響で塗料が飛散する恐れがあります。建物が隣家と接近している場合は隣家への飛散リスクが高くなるため、事前に工事方法の説明に行きましょう。
厳重に養生するため、通常より養生にかかる時間が長い恐れがあります。
塗料の飛散でクレームが来たらどうすればいい?
隣家から塗料の飛散でクレームが来たら、まずは相手の被害状況を詳しく聞きましょう。話を聞いたら実物や写真で飛散の様子を確認し、塗装業者に相談してください。
曖昧な対応は避け、素早く対応する姿勢を見せれば納得してもらいやすくなります。
塗装中のクレームについてはこちらで詳しく解説しています。
デメリット2:職人の高い技術が必要
吹き付け塗装は難しい作業なので、品質を保つために必ず技術力のある職人が必要です。吹き付け塗装の施工自体が難しいのですが、近年養生にかかる時間や騒音のクレームが原因で吹き付け塗装を避ける業者が多く、職人の経験値や技術力が低下しています。
吹き付け塗装をするときは、吹き付け塗装を得意としている業者や、実績が豊富な業者を選びましょう。実績がなく、技術力が低い職人が塗装すると、塗りムラや剥がれなどの施工不良につながる恐れがあります。
デメリット3:機械の騒音がうるさい
吹き付け塗装で使用する機械のモーター音や作動音が騒音と感じる恐れがあります。工期が短い吹き付け塗装でも、繊細な作業が続けば騒音と感じる時間も長くなります。
施工中の騒音は、吹き付け作業時だけではありません。足場の組み立てや解体・高圧洗浄なども大きな音がするため、近隣住民と騒音トラブルに発展する恐れがあります。
騒音トラブルを避けるために、近隣住民へ挨拶に行き、工事日程を共有しておきましょう。
吹き付け塗装の騒音対策は?
吹き付け塗装中の騒音対策は、騒音が出る期間とボリュームを事前に確認し、外出するのが賢明です。家の中にいるときはイヤホンや耳栓で対策しましょう。
それでも騒音が気になるときは、業者に相談してください。作業方法は変わりませんが、作業の時間帯などの相談に乗ってくれます。
外壁塗装中の騒音については、こちらで詳しく解説しています。
デメリット4:塗料の使用量が多い
吹き付け塗装は飛散・はみ出し分などによって、塗料の使用量が多くなります。吹き付けた塗料のうち、飛散する塗料は約20%ほどです。
塗料の使用量が多いと、その分費用も上がります。吹き付け塗装で塗料の無駄を少なくするには、エアレススプレーで粘度の高い塗料を使用するのがおすすめです。
吹き付け塗装が向いている外壁と向かない外壁
吹き付け塗装には、向いている外壁と向かない外壁があります。外壁の中で向かない箇所についても解説します。
向いている外壁 | 向かない外壁 |
---|---|
広範囲の外壁 凹凸や模様がある外壁 | 厳重な養生が難しい部分 隣家と接近している外壁 |
向いている外壁:広範囲の外壁
吹き付け塗装は素早く塗装できるため、広範囲の外壁におすすめです。ローラーで塗装するより効率が良く、短い工期で仕上がります。
外壁だけでなく、雨戸やシャッターにも向いています。
吹き付け塗装は細かい部分には不向きで、繊細な部分には刷毛を使用する場合が多いです。
向いている外壁:凹凸や模様のある外壁
吹き付け塗装は、凹凸や模様がある外壁の塗装に向いています。凹凸部分に塗料が密着し、元々模様のある外壁の意匠性を保ったまま塗装できるからです。
凹凸や模様があると、ローラーでは隙間による塗りムラができやすく、細かい部分にハケを使うと塗装に時間がかかります。また、外壁の模様を活かした塗装をしたい人は、塗料が模様に密着する吹き付け塗装がおすすめです。
向いていない外壁:厳重な養生が難しい付帯部など
吹き付け塗装は、厳重な養生が難しい付帯部の塗装に向いていません。複雑な形や狭い範囲は養生が難しく、塗料の飛散を防止できない恐れがあります。
吹き付け塗装が向いていない箇所は、下記を参考にしてください。
吹き付け塗装が向かない箇所
- 破風版
- 雨樋
- サッシ
- 軒天
- 水切り
向いていない外壁:隣家と接近している外壁
吹き付け塗装は、隣家と接近している外壁には塗装できません。外壁と一定の距離を保って塗装するため、隣家が近いと十分な作業スペースが確保できないからです。
通常の手塗り塗装では、最低30cmあれば塗装できる業者が多く、足場の設置ができれば塗装できます。吹き付け塗装の場合は吹き付け機械と外壁の距離を20cm前後開けなければいけないため、作業スペースは30cm以上必要です。
また、隣家が近いと塗料の飛散リスクが高まり、トラブルに発展しやすくなります。
吹き付け塗装ができるスペースは業者によって異なるので、不安な場合は塗装業者に相談しましょう。
吹き付け塗装とローラー塗装を比較
吹き付け塗装とローラー塗装には、下記のような違いがあります。
項目 | 費用 | 工期 | 難易度 | 塗装中の騒音 | 汚れ |
---|---|---|---|---|---|
吹き付け塗装 | 安い | 短い (7日〜10日) | 難しい | あり | 溜まりやすい |
ローラー塗装 | 高い | 長い (10日〜14日) | 一般的なレベル | なし | 溜まりにくい |
ローラー塗装の特徴
ローラー塗装は、さまざまなサイズや毛足のローラーを用いて塗装します。道具が扱いやすく塗りやすいので、吹き付け塗装よりも難易度が低い塗装方法です。風などの影響で塗料が飛散するリスクも低いため、塗料を無駄にせず使用できます。
また、塗膜の厚みを持たせやすくきれいに仕上がるので、職人の技術力によって仕上がりに差が出にくい特徴があります。現在では主流の塗装方法であるため、ローラー塗装を得意とする業者や職人が多いのがメリットです。
塗装方法ごとのメリット・デメリットを比較
吹き付け塗装とローラー塗装のメリット・デメリットは下記で比較できます。
項目 | メリット | デメリット |
---|---|---|
吹き付け塗装 | 施工が早く工期が短くなる 外壁に塗料が密着しやすい 吹き付けならではの高い意匠性 | 塗料の飛散防止に厳重な養生が必要 職人の高い技術が必要 機械の騒音がうるさい 塗料の使用量が多い |
ローラー塗装 | 塗料が飛散しにくい 仕上がりが職人の技術に左右されない 塗膜が厚く塗れる | 工期が長くなる 仕上げの模様が少ない 複雑な形の塗装に対応できない |
吹き付け塗装は、養生や職人の技術・騒音・塗料の飛散に注意が必要ですが、費用を抑えて工期を短くしたい人におすすめです。意匠性の高さで外壁をおしゃれにできるのは、吹き付け塗装で得られる大きなメリットです。
ローラー塗装は、手塗り作業なので塗装に時間がかかりますが、騒音や塗料の飛散・職人の技術力の心配がありません。塗膜を厚くしつつ、色ムラもあまりないので、外壁が隣家と接近している人や、模様より色ムラのないきれいな仕上がりを好む人におすすめです。
より価格が安いのは吹き付け塗装
吹き付け塗装とローラー塗装の費用を比べると、より価格が安いのは吹き付け塗装です。それぞれの費用相場は下記を参考にしてください。
吹き付け塗装の費用相場 | ローラー塗装の費用相場 |
---|---|
40〜70万円 | 80〜100万円 |
吹き付け塗装のほうが費用が安いのは、ローラー塗装より工程数が少なく、人件費も削減できるためです。ただし、吹き付け塗装でも工程数が多い工法や高額な材料を採用すると、費用は上乗せされて高くなります。
塗装費用は、業者や塗料の種類・塗装面積によって変動します。
より工期が短いのは吹き付け塗装
吹き付け塗装とローラー塗装では、吹き付け塗装のほうが短い工期で塗装が完了します。それぞれの工期は下記を参考にしてください。
吹き付け塗装の工期 | ローラー塗装の工期 |
---|---|
7日〜10日 | 10日〜14日 |
機械で広範囲を塗装していくため、ローラー塗装より工期が短くなります。作業工程や工期は仕上げ方によって変動します。
どちらも技術のある職人が塗装すれば問題なし!
吹き付け塗装とローラー塗装、どちらも高い技術をもつ職人の作業が必要不可欠です。職人の腕は仕上がりを左右するだけでなく、工期にも関わってきます。
施工が難しい吹き付け塗装は、技術力の低い職人に当たると塗りムラや剥がれが発生する恐れがあります。ローラー塗装は吹き付け塗装ほど難しい技術ではないですが、技術力がなく経験が浅い職人だと仕上がりまでに時間がかかり、工期が伸びる恐れがあります。
職人の技術力は、施工事例や経験年数で確認しましょう。
外壁の吹き付け塗装の工程と【4つの】仕上げ
外壁の吹き付け塗装は、デザインの異なる4つの仕上げ方法があります。
項目 | メリット | デメリット | 耐久性 | 費用相場 |
---|---|---|---|---|
スタッコ仕上げ | 塗膜が厚く、高級感を演出できる | 汚れが溜まりやすい | 高い (10年) | 高い (2,469円/㎡) |
吹き付けリシン仕上げ | 透湿性・通気性に優れている | 塗膜が薄く、ひび割れやすい | 低い (7年) | 安い (1,000円/㎡) |
リシン搔き落とし仕上げ | 好みの粒の大きさに仕上げられる | 手間がかかる分、費用が高くなる | 高い (15年) | 高い (3,650円/㎡) |
吹き付けタイル仕上げ | デザインが豊富で、ひび割れや汚れに強い | 仕上がりが職人の腕に左右される | 高い (15〜20年) | 高い (4,000円/㎡) |
耐久性や費用は使用する塗料によって変動します。
吹き付けの外壁塗装工程
吹き付け塗装の工程は下記を参考にしてください。
吹き付け塗装工程
- 足場組み立て
- 高圧洗浄
- 下地処理
- 養生
- 下塗り
- 中塗り
- 上塗り
- 仕上げ
- 足場解体
吹き付け塗装は業者や仕上げ方により、下塗りと中塗りをローラーで行う場合があります。吹き付け塗装を行いたいものの、少しでも塗料の飛散を抑えたい人におすすめです。
4つの仕上げ方によって、作業工程は変動します。
スタッコ仕上げ
スタッコ仕上げとは、石灰やセメント・砂などの厚塗り塗料を吹き付け、表面に凹凸模様をつける塗装方法です。重厚感や高級感が演出され、美しい外観に仕上がります。
自然から取れる強固な素材を厚塗りしていくため、耐久性が高く、外壁の劣化を防ぎます。水を吸収する性質がなく、防水性が高いのもメリットです。
スタッコ仕上げは吹き付け塗装のほかに、コテを使ったコテ塗りがあります。
吹き付けリシン仕上げ
吹き付けリシン仕上げは、混ぜ込まれた骨材をリシンガンという専用の機械で吹き付ける、もっとも一般的な施工方法です。安価なため人気が高く、ザラザラとした凹凸のある仕上がりになります。
透湿性・通気性に優れているので、外壁内部に湿気がこもりにくく、腐敗を防いでくれるのが特徴です。ただし、スタッコ仕上げより塗膜が薄いため、耐久性が低く、ひび割れを起こしやすいのが難点です。
ひび割れが起きると外壁内部へ雨水が侵入しやすくなるので、定期的な点検とメンテナンスを怠らないようにしましょう。
ひび割れに追従する弾性リシンという仕上げ材を使うと、ひび割れの表面化を防げます。
リシン掻き落とし仕上げ
リシン搔き落とし仕上げは、セメントに石灰や骨材を混ぜた塗料を厚めに塗り、硬化前に表面をワイヤーブラシや搔き落とし器で掻き取る施工方法です。素材の質感が豊かに表現され、搔き落とし方を工夫すれば、文字やロゴ、模様を作成できます。
仕上がりは職人の掻き取り方で決まり、粒が大きい荒々しい雰囲気や、細かい繊細な雰囲気などを選択できます。職人の腕やセンスが問われるのが特徴です。
塗膜が厚いので耐久性が高く、ひび割れも抑制できますが、手間がかかる分、施工費用は高くなります。
吹き付けタイル仕上げ
吹き付けタイル仕上げは、骨材を使用しないためタイルのような艶感がある滑らかな表面になり、柔らかい雰囲気に仕上がる施工方法です。仕上がりは、吹き付けたあと手を加えない「吹き放し仕上げ」と、コテやローラーで凹凸を潰す「ヘッドカット仕上げ」の2種類あります。
色艶や粒の大きさが変えられるため、デザインが豊富です。ひび割れや汚れにも強く、美しい外観を持続できる特徴があります。
ただし、デザインが豊富な分、仕上がりが職人の腕に左右されるので、経験豊富な業者に依頼しましょう。
外壁塗装の吹き付け塗装でよくある質問と回答
外壁塗装の吹き付け塗装でよくある質問をまとめました。吹き付け塗装についてまだ疑問が残る人は、ぜひ参考にしてください。
-
吹き付け塗装は安全ですか?
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吹き付け塗装は、使用する塗料の20%が飛散するため、安全とは言い切れません。油性の塗料を使用すれば有機溶剤の匂いによる健康被害が起こる恐れがあります。
施工業者も十分配慮して施工にあたりますが、匂いが気になる場合はマスクをしたり、換気をしたりして対策しましょう。匂いが抑えられる水性塗料に変更するのもおすすめです。
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風が強くても吹き付け塗装できますか?
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吹き付け塗装は、風が強いと塗装できません。塗料の飛散量が増え、外壁に埃がつきやすくなるためです。
吹き付け塗装に限らず、外壁塗装は湿度85%以上・気温5℃以下の日は塗装に適しません。
-
吹き付け塗装は耐久性が高いですか?
-
吹き付け塗装の耐久性は、仕上げ方法によって変わります。詳しくはこちらを確認してください。
外壁の吹き付け塗装まとめ
専用の機械で塗料を吹き付けて施工する吹き付け塗装は、高級感や重厚感がある仕上がりになり、下記のようなメリットがあります。
吹き付け塗装のメリット
- 施工が早く工期が短くなる
- 外壁に塗料が密着しやすい
- 吹き付けならではの高い意匠性
また、吹き付け塗装は細かい養生が必要な場所や隣家と接近している外壁には、下記のデメリットがあるため向きません。
吹き付け塗装のデメリット
- 塗料の飛散防止に厳重な養生が必要
- 職人の高い技術が必要
- 機械の騒音がうるさい
- 塗料の使用量が多い
4つの仕上げ方法によっても仕上がりの雰囲気が変えられるので、おしゃれな外壁にしたい人は吹き付け塗装を採用しましょう。